蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「所で、『あれ』の状態はどうかね?」
まるで世間話をするような気軽さで、いきなり事の核心に触れて来た日翔老人の言葉に、柏木は正直閉口した。
やはり、そう言うことか。
だが、現状を把握するだけなら、わざわざ会長本人が出向いてくる必要などない。
目的は、何処にあるのか?
嫌な予感が胸を掠めるが、柏木はごく冷静に答える。
「状態は安定しています。ですが、もう少しの調整が必要かと……」
柏木がちらっと、傍らに座っている藍の表情を確認すると、彼女の顔は、傍目にもそれと分かるほど青ざめていた。
――まずいな。
早めに切り上げた方が良さそうだ。
柏木が内心少し焦り初めていた時、老人が穏やかな口調で、とんでもないことを口にした。
「そうか、では二週間やろう。二週間で全てを完了するのだ」
「!?」
さすがに今度は、柏木も驚きの表情が隠せない。
「お祖父様!?」
藍が、思わず叫んで立ち上がる。
「そんなの、いくら何でも急すぎます!」
「藍、ワシはもう高齢だ。いつポックリ逝ってしまうやもしれん。老い先短い爺の最後の頼みだと思うて、聞き分けておくれ。それに……」
老人は、狼狽する孫娘をなだめるように、ごく穏やかに言うと、柏木にはジロリと、鋭い視線を投げつける。
「半年前の様なことがあってはもう、取り返しが付くまいて」