蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

『藍』の家出の事を言っているのだ。


『藍』について、主治医としても、全ての管理を任されていた柏木が、そのことで責任を問われずにいるのは、ひとえに首謀者が自ら名乗り出て処分を受けているからだ。


『私が独断で手引きしました』


そう名乗り出たのは、藍が幼い頃から世話係をしていた女性で、藍自信も母の様に慕っていた。


『藍』をここから逃がしたのは、所長である柏木自身なのだから、それが明るみに出れば、間違いなく処分されてしまう。


柏木もこの研究所も藍には必要な存在で、それを失う事は長い目で見れば藍の死に繋がる。


柏木に責任を取らせる訳にはいかない。


そう考えた彼女は、藍と柏木の為に、全ての責任を一身に負った。


藍は彼女を母親のように慕っていたが、彼女も又、藍を娘のように慈しんでいたのだ。


「でも、お祖父様、私の心の準備がまだ出来ていません。 大きな手術なんですもの、まだ、怖いんです!」


もう、限界だ。


感情を高ぶらせた藍が、事の真相をうっかり口走らないとも限らない。


尚も食い下がろうとする藍を、柏木が右手で制した。

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