蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
だが、当の会長様は気分を害した様子もなく、
「おお、おお、悪かったのう藍。ワシももう、お前しか肉親がおらなんで、つい、お前の前でこの話をしてしまった。許せよ」
と、柏木に抱えられた藍の手を握り、すまなそうに詫びている。
「お祖父様……」
藍が、力の無い笑みを浮かべる。
こう言う所が、この老人の憎めない所でもある。
柏木でもそう思うのだから、孫の藍ではほだされてしまう。
『それで実の所、何を企んでいるのだ?』などど問いつめられたら敵わない。
「それでは、しばらく安静が必要ですので、これで失礼します」
老人に黙礼をすると、柏木は、藍を抱え上げたまま出口へと足を向けた。
「柏木」
背を叩く老人の低い声に、柏木はドアの前で足を止める。
その声は、決して大きくはなかったが、逆らうことを許さないそんな威圧感を含んでいた。
会長の決定は、全てに優先する。
それが、日翔のルールだ。
「二週間ですね、承知いたしました。最善を尽くします」
柏木はそう答えると、藍を抱え上げたまま部屋を出て行った。