蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

だが、当の会長様は気分を害した様子もなく、


「おお、おお、悪かったのう藍。ワシももう、お前しか肉親がおらなんで、つい、お前の前でこの話をしてしまった。許せよ」


と、柏木に抱えられた藍の手を握り、すまなそうに詫びている。


「お祖父様……」


藍が、力の無い笑みを浮かべる。


こう言う所が、この老人の憎めない所でもある。


柏木でもそう思うのだから、孫の藍ではほだされてしまう。


『それで実の所、何を企んでいるのだ?』などど問いつめられたら敵わない。


「それでは、しばらく安静が必要ですので、これで失礼します」


老人に黙礼をすると、柏木は、藍を抱え上げたまま出口へと足を向けた。


「柏木」


背を叩く老人の低い声に、柏木はドアの前で足を止める。


その声は、決して大きくはなかったが、逆らうことを許さないそんな威圧感を含んでいた。


会長の決定は、全てに優先する。


それが、日翔のルールだ。


「二週間ですね、承知いたしました。最善を尽くします」


柏木はそう答えると、藍を抱え上げたまま部屋を出て行った。



< 256 / 372 >

この作品をシェア

pagetop