蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
二十畳ほどの室内は木目調の家具で統一されていて、ホテルのスイートルーム風にしつらえられているが、家具の扉を開ければ、そこには所狭しと多種多様な医療機器が配置されている。
その設備の内容は、地球上に存在しうる最高のもので、隣室には、大病院にも引けを取らない手術室も完備している。
そして、所長である柏木のもう一つの顔は、藍の医療チームを率いる筆頭医師でもあった。
「ね、先生。私、不整脈が出てるの?」
部屋の窓際に置かれた一見豪奢な特別製のメディカル・ベットに横たえられた藍は、傍らで心電図のモニターを調整している柏木に、少し不安気に尋ねた。
確かに、祖父の言葉に驚いて、少し興奮して心臓がドキドキしていたかもしれない。
でも、自分では、そんなに深刻な状況には感じられなかった。
もしかして、自分ではもう分からなくなるほど、体調が悪化しているのだろうか? と、不安になったのだ。
「最初から出ていないよ。きれいなものだ」
だが、いつもなら藍の心の動きを、読心術でも出来るのかと思うほど察してくれる主治医の柏木からは、しらっと落ち着いた答えが返って来て、藍はポカンと口を開けてしまった。
――もしかして、全部お芝居だったの?
そして、沸々と湧き上がってきたのは、モヤモヤとした感情。
「じゃぁ、これ、何してるの?」
心電図を計るために、体のあちこちに繋げられた電極板を指さし、藍はムッとして眉を寄せた。