蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「そ、そうですよね。それで、あの、今はどのような研究をされているのですか?」
「主に、私どもが行っているのは、『農作物・家畜の品種改良等の研究・開発』ですが、詳細は企業秘密なので、触れられませんね」
相変わらず何の感情も見えない柏木の『無表情』に、拓郎の焦りに拍車が掛かる。
この男のポーカーフェイスは、素なのか、それともそう装っているのか。
「そ、そうですよね」
どちらにせよ、会話が続かない事には変わりがない。
拓郎は、反射的に右手で頭をかきながら、どうしたものかと途方に暮れた。
その時。
クスクスクス。
聞き覚えのある笑い声が、拓郎の耳に届いた。
後ろからだ。
柏木が、やや驚きの浮かんだ視線を、チラリと拓郎の背後に向ける。
――まさか。
拓郎は息を呑んだ。
ぎこちない動作で、笑い声のした方、自分が入ってきたドアの方を振り向き、視線を巡らせる。
「!?」
ドアにもたれるように佇む人物を視界に捕らえた拓郎は、思わず声を上げそうになった。