蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
歩み寄られた当の本人・拓郎は、ソファーに腰掛けたまま動くことも出来ずに、近付いてくる藍を呆然と目で追う。
まさか、いきなり藍が自ら現れるなんて、予想外も良いところだ。
藍は、拓郎の右隣に腰掛けると、固まって自分を見つめている拓郎の右手を両手ではっしと掴んで自分の胸の所に持っていき、ギュッと握りしめた。
「……芝崎さん。黙って出てきてしまってごめんなさい。私、私、なんて言って謝ったらいいのか分からない。でも、来てくれてとっても嬉しいわ」
目をウルウルと潤ませる藍には、その態度や言葉とは裏腹に、どこか悪戯を仕掛ける子供の様な表情が浮かんでいる。
じっと藍の顔を見つめていた拓郎は、静かに口を開いた。
「……あの、日翔藍さんですよね?」
「ええ、日翔藍です」
ニッコリ。
邪気の無い笑顔を向けられた拓郎は、眉根を寄せて考え込んでしまった。