蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
――これは、いったいどういう事だ?
「藍、そのくらいにしなさい」
一連の様子を黙って見ていた柏木が、ため息混じりに口を開くと、藍は「だって」と、不満げに頬を膨らませた。
ああ、こういう反応が違うのだと、拓郎は気付いた。
拓郎の知ってる藍は、素直で予測の付かない反応をする娘だったが、この目の前に居る藍は、どちらかというと『天真爛漫なお嬢様』という印象だ。
大企業の令嬢だと言われても、『なるほど、そうだろう』と納得できる。
だとすると、どちらかが演技と言うことになる。
どっちが、本当の藍なんだ?
どっちが?
「じゃあ、これでおしまいにするわ。芝崎さん、あなたは私が日翔の跡取り娘でも、変わらずに好きで居てくれる? 何があっても、逃げ出したりしない?」
藍は、黙り込んでしまった拓郎の顔を覗き込むと、これ以上ないくらい真剣な眼差しで問うた。