蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

「十八年前、日掛 裕一郎の妻が妊娠した時、その胎児に先天性の内臓疾患が見つかった――。

その子供は、長い不妊治療の末やっと授かった子供で、もし、その子が無事に生まれなければ、今後、子を望むことは難しかった。

彼の父、当時の日掛グループ社長の日掛源一郎は、その人脈と財力を使い、世界最高水準の医療施設を作り上げた。

それが、ここ、日掛生物研究所だ――。

表向きは、日掛のバイオ部門の一研究施設だが、実際は ”日掛藍” 一人の為につくられた医療施設だ。

そこで、十八年前に行われたのが、臓器移植を目的としたその胎児のクローニングなのだ。

それは、他人の臓器を移植するより、安全で確実だからだ……。

『大沼藍』は、この世界の何処にも存在していない人間だ。

だから、もちろん戸籍もない――」 


淡々と、事実を語る柏木の声を聞きながら、拓郎は、藍と出会った時のことを思い出していた。




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