蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
19 【眠り姫】
「私ね、”眠り姫” になる事にしたの――」
日掛藍は、そう言って笑った。
「十年後か、五十年後か、それとも、もっと未来か――。いつか、医療技術が進んで、この病が治療可能になるその日まで――」
その笑顔には、何の陰りも無い。
「でね、その時誰も知ってる人がいないと、寂しいじゃない? だからね、私、子供を作る事にしたの」
そう言うと、いたずらっ子のように、ウフフと笑う。
「そしてね、いつかその時が来たら、子供達に起こして貰うのよ。素敵じゃない?」
彼女の卵子はすでに摘出され、冷凍保存されているのだと言う。
冷凍睡眠
――コールド・スリープ――
それは、柏木浩介の本来の研究テーマで、半年前、藍を研究所から脱出させた時には、すでに決めていた事だったのだ。
すべての準備が整いつつある時に、藍が自らここに戻らなければ、事はこんなに複雑にはならなかったのだ。