蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「ねぇ、どっちがどっちだか分かる?」
腰まで伸びた見事な漆黒の髪を揺らしながら、日掛藍が悪戯っ子の様な瞳で、柏木と拓郎に問いかける。
「分からない筈ないだろう!」
綺麗に重なった二人の声が、広いメディカルルームに響き渡った。
防音壁になっているから、扉の外で見張っているガードマンには届く心配はないが、とうの声の主達は同時に驚いた表情になる。
その余りのタイミングの合い具合が面白くて、二人の藍達は、同時に吹き出した。
柏木と拓郎がお互いに視線を走らせ苦笑する。
「さあ、お嬢様方、出発のお時間ですよ」
少しおどけた様に恭(うやうや)しく言う柏木の声が、別れの合図。
「私……、お姉ちゃんが大好き」
藍の声が震える。
鼻の奥にツンと熱いものがこみ上げてきて、藍は天井を仰いだ。
勝ち気で我が儘に見えるけど本当は優しい、幼い時からいつも一緒にいた『大好きなお姉ちゃん』。
実は自分が、彼女の臓器移植用に作られたクローン体だと知っても、やはりこの姉(ひと)が大好きだった――。