蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
廊下は既に照明が落とされていて、常備灯の小さな明かりだけが足下を照らしている。
三人はそこへ、ゆっくりと足を踏み出した。
柏木を先頭に続いて藍、そして最後が拓郎。
ジロリと厳しい視線を向ける二人のガードマンの間を抜けていく。三人の足音が、静まり返った廊下に響き渡った。
余りの緊張に、藍は、駆け出したい衝動に駆られてしまう。
――慌てたらダメだ。落ち着いて。
「柏木所長」
不意に掛けられたガードマンの声に、思わずびくりと足が止まる。藍は、顔を上げられずに自分の靴のつま先をじっと見詰めた。
「何かな?」
ごく冷静な柏木の声が、シンと静まり返った薄暗い廊下に響く。
「岡崎秘書からの伝言です。何時になっても良いから、就寝される前に岡崎さんの部屋の方に顔を出すようにとの事です」
「分かった」
無表情で事務的に岡崎さんの言葉を伝えるガードマンに、柏木が更に事務的に返事を返す。
「ああ。部屋の中には実験体しかいないから、良く見張っていてくれ。何かあったら、首が飛ぶくらいではすまないのでね」
『首が飛ぶ』との柏木の物騒なセリフに、ガードマン達の顔に一瞬人間味のある表情が浮かんだ。互いに視線を交わして、神妙に頷く。
第一関門突破!
ガードマンの視界から完璧に外れたとき、三人はそれぞれに大きな溜息を付いた。