蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

「柏木所長」

近付いてくる影の主が、男性にしては少しトーンの高い抑揚の無い声で、柏木を呼ぶ。

神経質そうな声――。

拓郎はその声に聞き覚えがあった。

そう。あれは、HIKAKEの本社に行った時に聞いた声。

「あ、ヤバイかも」

拓郎が焦ったようにボソリと呟く。

「あれ、会長秘書の岡崎さんですよね。柏木さん俺、藍を捜しに取材を装ってHIKAKE本社に行った時、彼に合ってるんです。俺が偽医者だと気付かれるかも……」

囁くように、早口で耳打ちする拓郎のセリフに、柏木が微かに眉根を寄せた。

「分かった。彼は私が引き止めるから、君たちは手はず通りに行きなさい。慌てずにゆっくりと。いいね」

「はい」

拓郎は柏木に素早く返事をして、さり気なく藍の背中を押した。

そのまま二人は、研究所の出口へ向かい歩き出す。

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