蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
23 【脱出行-3】
「岡崎さん、お嬢さんは予備検査で大分疲れています。急ぎの用でなければ、明日にして貰えませんか?」
「はい」と返事はしたものの藍が岡崎に近付いて行く事も出来ずに、突っ立て躊躇(ためら)うこと数十秒。柏木がすかさず助け船を出してくれた。
「そうですか……。分かりました。お嬢さん、明日の朝食後伺います。宜しいですね?」
岡崎の声はやはり神経質そうで、予定がずれる事が不本意だと言うニュアンスを含んでいたが、そんな事はこの際無視させて貰う。
「はい。分かりました」
藍は、返事と共に作った笑顔が、思わずヒクヒクと引きつる。
藍達の声質は基本的には一緒だが、藍の方がトーンが幾分低い。極力話をしない方が無難だ。
「そう言う事だから君、お嬢さんを早くお連れして。体調チェックを忘れないように」
それは、柏木が拓郎に向けた言葉。
拓郎は「分かりました」と神妙に頷くと、さり気なく藍の背中を押した。
良かった……。
何とかバレずに済みそう。
そう思ったのもつかの間。
「あれ? 君、どこかで会った事ないか?」
岡崎が、拓郎に訝し気に声を掛けた。