蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「つい最近、研究所以外のどこか……東京か?」
「気のせいじゃないですか? 私は、あなたに会うのは初めてですが? 何分、こちらに来たのも最近なので」
いつもより低い声音で返事する拓郎を、岡崎は眉根をギュと寄せて見詰めている。その瞳が微かに青白い光を放ったような気がした。
「いや、気のせいじゃないな。私は一度会った人間の顔は忘れないのでね」
嫌な沈黙が落ちる。
今、岡崎の脳内では、コンピューターのようにデータ検索が行われているに違いない。侮れない。この人物は、曲がりなりにも日掛グループ会長の第一秘書なのだから――。
「藍、走るぞ」
ポソリと耳元で呟く拓郎のセリフに藍は、頷きで答える。
「そうか、日掛の本社だ。会長の取材に来た雑誌記者、芝崎と言ったか。あれは君だろう?」
カツン――。
靴音が静寂を破って、迫り来る危機を伝える。
驚きと、思い出した事への安堵感と、それらが入り交じったような歪んだ笑みを張り付かせて、岡崎が歩み寄ってくる。