蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
日が高くなるに連れて、今朝の静けさが嘘のように散歩やジョギングをする人、観光に訪れる人が増えて来た。
一見して、プロと分かるような機材を抱えた拓郎は人目を引くらしく、気が付くと、いつの間にか二人の周りには人だかりが出来てしまっていた。
「何、雑誌の撮影?」
「あのコ、モデルなの?」
ささやく声がやたらと二人の耳に入ってくる。
ただでさえ緊張してコチコチなのに、この状況。
藍は、作った笑顔がヒクヒクと引きつった。
「う~ん……」
このままじゃ、無理か……。
『藍は写真を撮られ慣れていない』のだろうと、拓郎は思った。
それは、推測と言うよりは確信に近い。
今時、カメラに限らず、携帯電話でもプリクラでも、写真を撮るなんて事は日常茶飯事だ。
それも十七才。
藍くらいの年齢ならば、写真を撮られる事にそんなに抵抗はないはずだ。
でも実際、藍はレンズを向けると、全身硬直状態になってしまう。
どうしたものか。
人だかりを『まいったな』と言う表情を浮かべて見渡しながら、拓郎は頭をぽりぽりかいた。
「藍ちゃん! 少し休憩にしようか」
「は、はいっ!」
その声と同時に、藍はその場に脱力したようにしゃがみ込んでしまった。