蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
26 【贈り物】
「二人とも、上手く逃げ切れているかしら?」
コールドスリープに入る準備に追われている柏木の作業を目で追いながら、既に装置の中に横たわっている藍が、心配げに瞳を揺らしながら呟いた。
「心配ないよ。あの二人なら必ず逃げ切るだろう」
あの青年なら大丈夫。
何があっても、乗り越えて行けるはずだ。
柏木の脳裏に、拓郎の真摯な真っ直ぐな瞳が過ぎった。
「寂しいかい?」
その作業の手は休めずに、柏木が問う。
寂しくない訳はなかった。ずっと一緒に育って来たのだ。
それは、普通の姉妹以上の絆の筈だった。
だからもう一人の藍も、自分の命と引き替える事になると知りながら、ここに戻って来たのだ。
「寂しくなんかないわ。だって私には、先生が居てくれるでしょう?」
「ああ」
やはり手は休めずに、柏木が答える。
「ね、先生」
「何だい?」
続く作業――。
「浮気しちゃ、イヤよ」
藍の声が少し拗ねているのを感じて、柏木は苦笑を浮かべた。
「しないよ」
思わず声に笑いの成分が含まれてしまう。
「ね、先生」
「うん?」
「キスして?」
予想外の藍のセリフに、思わず柏木は作業の手が止めて藍の顔をまじまじと見詰めた。
「困った、お姫様だ」
そう言うと、藍の身体をそっと抱き締めると、優しく口付けた。