蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

「あのね、昔、柏木先生に迫った事があったんですって」

藍が楽しそうに話し始めた。

「えっ!? 誰が!?」

「水口先生が、柏木先生に!」

クスクス笑う。

「へぇ。それで?」

興味津々の拓郎の言葉に、藍が吹き出した。

「柏木先生、気が付かなかったんですって。その事に」
 
「“赤い顔してるけど熱でもあるのか?”って冷静に脈を取られたわ。昔っからあの御仁は鈍ちんの、研究バカだったわ!」

そう言って、水口先生は豪快に笑っていたそうだ。

「ほら、笑って!」


ファインダーの中の笑顔は、満ち足りて穏やかに輝いていた。


神様がいるのなら、どうかこの笑顔がいつまでも続きます様に――。


拓郎は、願いを込めてシャッターを切った――。







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