蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
これは、もしかして、どこぞの箱入り娘を拾ってしまったのかも。
そうなら、十中八九捜索願いが出ているだろうし、警察も捜査に熱心だろう。
勿論、拓郎に藍をどうこうする気は毛頭無いが、世間ではそうは見ない。
『27歳カメラマン、17歳家出少女を自宅アパートに連れ込む』
真実がどうあれ、事実には違いない。
下手をすると、新聞の三面記事を飾って、お縄頂戴になりかねない。
どんな事情があるかは知らないが、早めに説得をして、家にお帰り願った方が良さそうだ。
料理を進めながら、『う~む』とそんな事を拓郎が考えていると、しばらく物珍し気に部屋を見回していた藍が遠慮がちに声を掛けてきた。
「あの、ご家族はいらっしゃらないんですか?」
「ああ。家族はいないんだ」
拓郎が、ごくさらりと答える。
「親は、俺が八才の時に交通事故で、二人仲良く墓の中。兄弟もいないし、親戚とは疎遠でね。気楽な物さ」
そう言って拓郎は、軽く肩をすくめた。
「あ……」
驚いたように声を発した藍の表情が、見る間に曇って行く。
「すみません。 余計なこと聞いてしまって……」
そう言って、俯いてしまう。