蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
同居の家族がいないのは一目瞭然だし、別に隠すことでもない。
昨日今日一人になった訳でもないので、拓郎自身は何のためらいもなく事実を言っただけなのだが、藍はシュンと、うつむいたまま顔を上げようとしない。
こういう身の上話を聞いたときの人間の反応は、大体大きく二つに分かれる。
『気の毒に』と同情するか、あるいは、同情しているように見せるか。
そんな意地の悪い分析が出来るほど、拓郎自身はあまり頓着しないでいるが、藍の方はそうも行かなかったらしい。
――気にさせてしまったかな。
こうもストレートに反応されると、逆に気の毒になってしまう。
でも、拓郎には藍の反応の仕方で一つ、気になることがあった。
「それ、止めにしない?」
なるべく何気なく聞こえるように、柔らかいトーン声で拓郎が話し掛けると、藍はピクリと顔を上げた。
「はい?」
何の事を言われているのか分からない様子で、きょとんとした表情を見せる。