蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
悲しいかな、その気が無くても、その気になるのが男のサガと言う物なのだ。
別に、藍をどうにかしようという気は毛頭ないが、拓郎も一般的ではないにしろ、二十七歳の健康な男だ。
同じ部屋に、それも狭いセミダブルのベットに、いくら十歳も下だとて『女の子と一緒に寝る』と言うのはちょっと、いや、かなり困った状況だった。
「でなければ、私がそちらで寝ます!」
どうしたものかと途方に暮れる拓郎に、情け容赦ない藍の追い打ちが掛かる。
「え……っと、その、あの……」
何か気の利いた言葉を言おうとするが、あまりの事に脳細胞が付いていかず見事に何も浮かばない。
「芝崎さん!」
儚気な最初のイメージとは違い、思いのほか頑固で引きそうになかった。
「……分かった。そうするよ」
アウトドア慣れしている自分ならともかく、藍ではそれこそ風邪を引いてしまうだろう。
頭をかきかき戻る拓郎に、邪気のない笑顔が向けられる。
――これは、ちょっと困ったぞ……。