蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
内心では焦っていた拓郎だが、おくびにも出さず黙々と寝る準備を整えた。
戸締まり、火の元、火の用心。
二度も同じ確認をするともうする事がなくなる。明日は早出の仕事が入っているから、さっさと寝たいのはやまやまだった。
だが――。
六畳の部屋にセミダブルのベット。
いつもは、何とも思わないこの風景がいっそ恨めしく映った。
寝室に戻ると藍は既に、ベットの端に体を寄せて横になっていた。顔にはニコニコと邪気のない笑顔。
色即是空。色即是空。
拓郎は心で密かに、信じてもいない仏教用語を唱えた。