蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
翌朝、六時を回った頃、拓郎は予定より少し早めに部屋を出た。
アパートの隣住んでいる『おばさん』の所に寄って、藍のことを頼んで行くためだ。
おばさんこと、佐藤君恵(さとうきみえ)は、このアパート『サン・ハイツA』の大家であり、拓郎の死んだ母親の親友でもある。
ちなみにアパートはAからGまで七棟あり、他にも沢山のテナントを所有している。彼女は、いわゆる『大地主』なのだ。
年齢は、『女性に年を聞くものじゃないわよ』と、聞いても教えてくれないので不明だが、おそらくは五十代前半。
体格と同じに、おおらかで懐の広い女性なので、彼女なら藍の事も快く引き受けてくれるはずだ。
拓郎が部屋を出るとき寝室を覗いたら、、藍はまだ良く眠っていた。
その、まだあどけない幼子のような安心しきった寝顔を見ていたら、『一緒に寝よう発言』で、思わずどぎまぎしてしまった自分の未熟さが、少しばかり恥ずかしくなった。
「修行がたりないな」
苦笑混じりに呟きつつ、車のトランクにカメラ機材を積み込み、アパートの隣の敷地に建っている大家邸に足を向ける。