蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

そんなことをつらつらと考えながら、勝手知りたる何とやらで、大家邸の裏門から入り、生け垣を抜けて庭に出た。


立派な日本建築の二階建ての母家の前。


手入れされた庭木に囲まれて、いつもの日課通り五歳になる孫娘の恵(めぐみ)と一緒に『朝の体操』をしている君恵に、「おはようございます」と声を掛ける。


「あら、おはよう。芝崎君、今日は早起きね」


「あ、拓にーちゃんだぁ♪」


身内の居ない拓郎にとっては、唯一家族のような存在である大家の佐藤一家。祖母と孫娘は、よく似た屈託のない笑顔を拓郎に向けてくる。


「メグちゃん、おはよう。ずいぶん体操、上手になったね」


恵の目の高さに自分の視線を合わせ、くりくり天然パーマの柔らかい髪を撫でてから拓郎は、「実は、お願いがあるんですが……」と、君恵に話を切りだした。




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