蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
――私、ここに居ていいんだろうか?
「迷惑じゃ……ないのかな?」
ポツリと呟いた声が、誰もいない部屋の中に響いた。
今、特定の場所にいない方が良いのは分かっている。
もしも、『彼ら』に見つかれば、確実に自分を助けてくれた親切なあの人に、迷惑がかかってしまうはず。
それに、ここは郊外とは言え『東京』。
本当なら、一番近付かない方が良い場所だった。
身を寄せるはずだった人物の住所を書いたメモは財布に入れて置いたら、その財布の入った荷物ごと盗まれてしまった。
覚えているのは『四十歳代の横浜在住の女医』と言うことだけ。
肝心の名前を覚えていないのが致命的だった。
とにかく横浜まで行ってはみたが、住所が分からないのでは辿り着けるはずがない。
お金も無く、行く場所もない。おまけにお腹が空きすぎて、もう歩く気力も無くなっていた。
途方に暮れて、ふらりと入り込んだあの公園で、拓郎に声を掛けられたのだ。