蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
十九年前の冬。
君恵の元に、親友の訃報が入った。
小学校から大学まで、ずっと一緒に学んだ、まるで姉妹のような存在の親友・瑠璃子。
優しい夫と可愛い一人息子に囲まれて、平凡だが幸せな生活を送っていた彼女は、ある日、不慮の事故によって、夫と自分自身の命を失った。
家族旅行の帰り、信号待ちをしていた瑠璃子たち家族の乗ったタクシーに、居眠り運転の十トントラックが、ノンブレーキで突っ込んだのだ。
タクシーは、原型を留めないほど無惨に大破した。
瑠璃子も、その夫も、タクシーの運転手も、一瞬にしてその命を奪われてしまった。
両親がとっさに庇ったのであろうその子供――拓郎だけが重傷だったものの、奇跡的に助かったのだ。
拓郎の背中には、その時の大きな傷跡が未だに消えずに残っている。
あれは、例えようが無い悲しい不幸。
だが、さらなる不幸は一人残された幼い拓郎の身に、情け容赦なく降りかかったのだ。
『保険金目当ての親戚を、たらい回しにされる』
それが幼い少年にとってどんな生活だったかは、察して余りある。
他人である君恵には、それが分かっていながら、どうしてやることも出来なかった。