蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
ハイエナのような親戚縁者は、拓郎に残された財産を全部引きはがすまで、彼を手放そうとはしなかったのだ。
そんな生活の中。
毎年自分の誕生日にプレゼントを贈ってくれる母親の親友の君恵を頼って拓郎が上京したのは、中学を卒業した年だった。
「おばさん、働いて必ずお返しします。ここに下宿させて下さい」
畳キチンと正座をして、深々と頭を下げる拓郎に君恵は言ったのだ。
「分かったわ。ここに来なさい。アパートに空いてる部屋があるから、そこを使うといいわ」と。
『返して貰うお金は多い方が嬉しいから、学費も出すわよ』と言う君恵の申し出を、拓郎は丁重に断わった。
その後自力で働きながら、定時制の高校と通信制の大学を卒業すると、好きだったカメラの道へと進んだのだ。
『強い子』だ。
いや、『強くならざるをえなかった子』だ。
あの環境の中で良く、あんなにいい子に育ったものだと感心する程だった。
――大事な親友の忘れ形見。
今までの苦労の分、幸せになって欲しいと心からそう思ていた。