蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
幼い頃から図鑑でしか見たことがない猫は、こんなにも温かい生き物だったのだと、藍は改めて実感していた。
「えっとね、ちゃーちゃんは、もうすぐお母さんになるの」
「え? お母さん?」
そう言われれば、茶トラの方が恰幅が良いような……。
「そう、赤ちゃんが生まれるのね」
「うん。たくさん生まれるから、お姉ちゃんにも一匹あげようか?」
「え?」
猫を飼う。
確かに、子供の頃からの密かな憧れだったけど……。
「あ、家のアパートペット可にしているから、猫を飼ってもOKなのよ。嫌いでなかったら、一匹貰ってくれると助かるわ」
コタツに昼食の手巻き寿司セットを広げていた君恵が、ニコニコと言う。
「あ、嫌いじゃないですけど……」
ただでさえ居候の身で迷惑を掛けているのに、ペットまで飼いたいなんてワガママのような気がして、藍は口ごもった。
「ああ、芝崎君の事を気にしているなら、心配ないわよ。元々は彼が連れてきた猫たちの子供なんですもの、喜んで引き受けてくれますとも」
うんうんと頷く君恵の鶴の一声で、近い将来、藍は始めてのペットを飼うことになりそうだった。