蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
三日後の夜。
仕事を終えた拓郎は、少し複雑な気持ちで帰路についていた。
もしかしたら、もう藍はアパートに居ないかもしれない。
家に帰ったのなら、それはその方が藍本人のために一番いいことだろう。
自分も、新聞の三面記事のネタになるリスクを回避出来て、万事丸く収まり言うことはなし。
そう思っている。
なのに――。
薄闇の中。
自分のアパートの部屋に灯る窓の明かりが、どうしてこんなに温かく感じるのだろうか――。
「芝崎さん。お帰りなさい」
藍の、満面の笑顔が拓郎を迎える。
屈託のないその笑顔には、何の思惑も見えない。
そこにあるのは、拓郎の帰宅を素直に喜ぶ純粋な笑みだ。
単に、こういうシチュエーションを心のどこかで願っていたのか。
それとも――。
「……ただいま」
自分自身でも捉えきれない己の感情に戸惑ながらも、答える拓郎の顔にも、確かに笑みが浮かんでいた。