蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
6 【聖なる夜に】

12月24日の夜。


世間はクリスマスムード一色で、どこもかしこも浮き足立っている。


藍もご多分に漏れず、そのクリスマスムードのまっただ中に居た。


君恵の家のクリスマス・パーティに招かれて、朝から飾り付けや料理の仕込みなどの手伝いをしていたのだ。


「それにしても、藍ちゃんの料理の腕前には驚かされるわね」


君恵の一人娘で、婿を取って家の後を継いでいる美奈が、コタツの上に並んだ料理を眺めながら、しみじみと感心した様子で呟いた。


美奈は、ショートボブの似合う快活な姉御肌の女性で、藍が美奈に初め合ったときの第一声が「へぇ~。あなたが、拓郎の彼女なんだ」で、頭の天辺からつま先までしげしげと観察された藍は、正直『苦手な女の人だ』と感じた。


でも、一旦打ち解けてしまうと、実に面倒見が良い優しい女性だと言うことが分かった。


今では、温かい『お母さん』と言った君恵とは又違う意味で、藍の良き相談相手になっていた。


「本当に、今度ケーキの作り方教えて貰おうかしらね」


甘党で、ケーキには目がない君恵が、ほくほく笑顔で相づちを打つ。


孫娘の恵は、「ケーキ、ケーキ♪」とはしゃいでいた。


テーブルの上には、手作りのデコレーションケーキを始め、チキンの照り焼きからデザートまで、本格的なクリスマス料理が所狭しと並んでいる。


勿論、美奈も君恵も、そして五歳の恵も手伝いはしたが、その殆どは『日頃のお礼に』と、藍が作った物だった。


飾り付けも万端。料理も完成。


あとは、美味しく頂くだけだ。

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