蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
その頃。
黒谷邸のクリスマス会場にいた拓郎は、鼻の下を伸ばして……はいなかった。
「こら、呑みが足りないぞ芝崎。もっとじゃんじゃん行け!」
「ほいほい。ビールもイケイケや、芝ちゃん♪」
「シャンペンもな、拓郎」
「日本酒、熱燗が良いか? お冷やもあるぞ!」
拓郎は、決して酒に弱くはない。むしろ強い方で、普通に呑む分にはあまり酔いつぶれると言うことはない。
だが、これだけハイピッチでチャンポンをさせられると、さすがにきつい。
二十七歳という、ここに集う者の中では年齢邸的に一番若い拓郎が、飲め飲め攻撃のターゲットになるのは毎年恒例の事で、在る程度覚悟をしてきているが、さすがに早々と酔いが回って来ていた。
――やっぱり、今日は帰れそうもないな。
藍は、君恵おばさんの所に泊まることになっているから心配はない。
それでも、『お帰りなさい』の言葉とあの笑顔が見られないのは、少し淋しい気がする。
――変なものだな。
恋人でもなんでもないのに――。
拓郎は思わす、苦笑した。