けふ、てふになる
ー 第1章 〜種まき〜 ー
華恋side
「ねぇ!もしかして名前で騒がれてるのって君のことかなぁ?」
またか。
どうせこの人もすぐに私のことを馬鹿にし始める。
「そうなんじゃないですか」
早く離れて欲しい。
いつも初対面の人にはワザと冷たくする。
どうせ馬鹿にされるなら相手に何の感情も抱かないうちに離れて欲しい。
今日、私は見渡す限りのどかな風景が広がる千葉県の高校に入学した。
偏差値はそこそこ。
田舎ってこともあってここも含め、近隣の学校全体がどちらかと言えば自由な校風。
それだけに生徒はそれなりに派手目な人も多い。
「君なんて名前なの?」
名前…
絶対に聞かれるもの。
そのたびに言わなくちゃいけなくて、
馬鹿にされる。
大っ嫌いな名前。
本当は言いたくもない。
昔はそうしてた。
でも名前は隠しようがなくて、すぐに広まっていった。
名前を隠したことを馬鹿にされた。
言わない方が余計馬鹿にされるって知ったから、言いたくなくても言うことにした。
「城ヶ花…華恋」
「ジョウガバナカレン?」
はい、もう終わり。
次の言葉はきっと
意味もなく私を傷付けようとする言葉。
「へぇ〜キレイな名前なんだねぇ!どーやって書くのぉ?」
ーーーーーーーーー!?
キレイな名前…
初めて言われた。
なんでそんなこと……
…そっか
きっとこの人は私が居ない所で馬鹿にするんだ。
きっといい気にさせといて、後で落とすんだ。
こんな男に騙されちゃダメだ。
きっとまた痛い目をみる。
「苗字はシロに1ヶ月のカにハナで、名前は華やかのハナに恋って書いてレンです。」
「へぇ〜字で書いたらもっとキレイなんだね!君にピッタリだよぉ」
私にピッタリ?
私は綺麗なんかじゃない。
この男には裏がある。
この男は私みたいな弱い人間を何度も騙してきたんだ。
でも私はそうはいかない。
「僕の名前も言わなきゃだぁ!」
一体この男はどこまで演技を続けるんだろう…
「僕ねぇメイってゆーんだぁ」
「………」
「女の子みたいだよねぇ サクラバ メイってゆーんだよぉ」
たしかに、女の子みたい…。
って何考えてるんだろ。
自分が名前で決め付けられるの嫌なのに、人の名前を聞いて女の子って決め付けるなんて…。
「字はねぇ 苗字が木のサクラにニワで桜庭で、名前が愛情のアイに生きるのイだよぉ」
桜庭愛生か…。
もしかして…
桜庭愛生も私と同じように名前で嫌な思いをしたことがあるのかも…
だから、私みたいに変な名前でも馬鹿にしないのかな。
名前が似合わないからってだけで理不尽ないじめにあったときの、
あのやり場の無い辛さを知っているから…。
いや、そんな訳ないか。
何考えてんだろう。
さっきからこの男のペースに乗せられて。
あんな経験をした人はこんな風に自分から人になんて話しかけられない。
きっと周りからチヤホヤされてきたに違いない。
騙されちゃダメだ。
「良かったぁ!新しい友達ができて嬉しいよぉ!」
「………」
……新しい友達って私のことじゃないよね。
「僕この学校にお友達居ないからさぁ、
華恋ちゃんとお友達になれて嬉しいなぁ」
華恋ちゃん!?
やっぱり私のことか…。
名前を教え合っただけで友達?
そんな簡単に友達になれるわけない。
まだ桜庭愛生の何も知らないのに。
私のことも…何も分かってないくせに。
「私はあなたと友達になったつもりはありません」
そうだ。
騙されちゃダメだ。
この男にどんな感情も持たないように。
冷たく。
「僕の名前は桜庭愛生だよぉ
ちゃんと名前で呼んでねぇ」
分からない…
掴めない男だな…。
「おーい愛生君!ちょっといい?」
「はぁい!ちょっと待ってぇ今行くよぉ」
なんだ、友達居るんじゃん。
ってこれじゃ残念って思ってるみたい。
「あっそういえばさぁ」
「……」
「華恋ちゃん自分の名前嫌いでしょ?」
「!?」
「僕もう行かなきゃだぁ またね華恋ちゃん」
なんだったんだろう。
桜庭愛生…。
やっぱり彼も自分の名前が嫌いなのかな…?
あの男と話していると、まるで私の考えていることを全て見透かされてるみたいな感覚に陥る。
とりあえず、掴めない人だった。