*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫
その声に、藤波もぱっと顔を上げた。





「灯!」





灯はぐっと腕に力をこめ、息吹の耳許に低く囁きかける。






「…………動くなよ」





「〜〜〜〜〜っ!!」






息吹はきつく眉根を寄せ、悔しそうに顔を歪ませた。




灯はそれを意にも介さず、視線を川べりに落とす。





「藤波、行け」






灯は藤波に向かって手振りをし、汀のいるほうを顎で示す。




藤波はこくりと頷くと、竹筒や水甕を放り出して走り出した。






「……………どうやって出た」






息吹が問うと、灯は目許を小さく歪めた。






「お前たちの言うところの青瑞の姫が、共にいたからな」





「………嘘をつけ。


あれはただの変な女だろう、そんな力があるわけがない」





「……………」






灯は何も答えず、息吹の首をとらえたまま近くの樹へと向かった。





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