*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫
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「今のうちに、青羽山を出るぞ。
もたもたしていたら、あの天城とかいう大男に見つかるかも知れない」
息吹を幹に縛りつけて汀たちのもとに戻った灯は、気が逸ったようにそう告げた。
しかし、汀はにっこりと笑って灯を見上げたまま、動き出そうとしない。
「…………なんだ」
「うふふ」
汀の笑顔を見て、灯は嫌な予感を抑えられない。
(…………また何か企んでいるな)
灯は、これ以上の面倒はごめん、とばかりに無視を決め込んだ。
何も言わずに早足で歩き出した灯の袖を、汀がきゅっと引き止める。
「待って、蘇芳丸!!
ちょっと、提案があるんだけど」
灯は剣呑とした表情でゆっくりと振り向いた。
「…………お前の提案が、まともなものだったことが一度だってあるか?」