*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫
そして、汀にだけ聞こえるように、小さく呟く。







「…………お前、な。


しょうもない思い込みで………他の男に抱きついたり、触れたりするな」







その声は、あまりにも低く、小さくて。







「え? なぁに?」






よく聞こえなかったので、汀は首を傾げて訊き返したが。



灯は黙って歩き出した。






しかし、藤波の耳にははっきりと、灯の不機嫌そうな呟きが聞き取れていた。






(………灯が、あんなこと言うなんて。



………なんか、なんて言うか………)






細い指に身体を触られたときの紅潮が残ったままの顔で、藤波はちらりと汀の顔を一瞥して、溜め息をついた。







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