*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫
しかし藤波が何も答えないので、汀は気を取り直したように手を叩いた。





「さて!! 村に戻るなら、やっぱり馬がいるわよねぇ」




「…………え」





愕然としている藤波を尻目に、汀はきょろきょろとあたりを見渡し始める。






「どこかで馬は売っていないかしら…………あ、あそこ!!」





なにかを見つけた汀が、突然駆け出した。




藤波は慌てて「鬘、はずさなきゃ!」と叫んだが、汀は気づかず、赤毛のままの姿である一軒の家へ近づいていった。






そこでは、馬を売りに来たらしい男たちと、それを買い取るつもりらしい商人が会話をしているところだった。





「おう、なかなかいい馬だねぇ」




「だろ? 俺の手柄だぜ!!」




「いったいどこの貴族さんから取り上げてきたんだか………」





「おいおい、それは言わないお約束、だろう?」





売り手たちの代表と思しき男と商人は、意味深な笑みで向かい合っていた。






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