*華月譚*花ノ章 青羽山の青瑞の姫
怒りを抑えきれないように拳を握り締める灯の前で、何ひとつ責任などないはずの露草が、びくびくと身を縮めている。





そこに、事態に気づいた糸萩が駆けつけてきた。





「………ちょっと、灯! だめだよ!!」





露草の隣に飛んできて、その肩を抱きながら見上げてくる糸萩に気づき、灯は視線を落とした。





「僕、前も言ったでしょ!?



露草さんはお嬢さま育ちで、灯みたいに無愛想な人には慣れてないんだから、あんまり怯えさせちゃだめだって!!」





「…………あ、すまん」






灯は素直に謝った。





もちろん本人には、露草を怯えさせるつもりなどないのだが。





燃える火色の髪に、見上げるほどの長身、そしていつも不機嫌そうな(ように見える)顔。




これらは、世慣れない露草を萎縮させるには十分な条件だった。






(………あいつは全然、俺を怖がる様子はないんだけどなぁ)






そう考えて、あっけらかんと笑う汀の面影を思い浮かべた瞬間、灯の怒りが再燃した。






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