箱入り結婚のススメ

「発表会なんだよね。準備は大変?」

「そうですね。手も片手なので、他の先生に迷惑をかけています」


彼は私の左手をチラッと見ると、口を開いた。


「舞さんだって、誰かが大変な時は手伝うでしょう?」

「はい。それはもちろん」

「だから、困ったときは助けてもらえばいいと思うんだ。
ありがとうの気持ちさえ忘れなければね」


ハッとした。
手が使えなくてやってもらうことが多い分、他でカバーしなくちゃと焦っていた気がする。


「だから、僕のことも頼ってくれる? 
ウーマンライフに書いてなかったかな。男は頼られるのに弱いって」


厨房からお肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。


「あ、でもあの先生はダメだから。僕にして」


慌てて付け足す室賀さんに笑みがこぼれる。

初めての恋で戸惑って、どこまでなにを言ってもいいのかわからなくて。
だけど、嫉妬ですら露わにしてくれる彼を見ていると、私ももっと力を抜いてもいいのかもしれないと思う。

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