箱入り結婚のススメ

年長までのすべての発表が終わると、緊張から解き放たれた私は呆然としてしまった。


「速水先生、大丈夫?」

「はい。すみません」


心配してくれた小栗先生に頭を下げると、すぐに後片付けに取りかかった。
しばらくすると、園児を帰した年長の先生たちもやって来て、手伝い始めた。


「速水先生。お疲れ」


麻子もやって来て、片手で苦労していた私を手伝い始めた。


「ありがと」


麻子は私よりずっと度胸があると思う。
こういうことがあっても冷静で、少しも動じることがない。
同じ歳なのに。

「そういえば。見ちゃった」


麻子は突然小声で私に話しかけてきた。


「なにを?」

「あの人」


「あの人」が誰のことだかすぐにわかった。
そういえば小栗先生のことも麻子には話していない。
そんな時間、なかったのだ。


「終わるまで近くの喫茶店で待ってるって」

「えっ、話したの?」

「うん。さっきちらっと。もうひとりの方とね」

もうひとりって……井出さんも来てたってこと!?
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