箱入り結婚のススメ
「練習してみる?」
「いえっ……」
彼に呼び捨てで呼ばれるのは胸がキュンとするけれど、私もだなんて無理だ。
だって室賀さんは室賀さんなんだもの。
「真正面は照れくさいか」
彼は立ち上がると、四つある椅子のうちの私の隣に座った。
「準備万端。それでは、どうぞ」
「でも……」
どうしよう。
ハードルが高すぎる。
彼を呼び捨てにするなんてできない。でも……。
「僕も恥ずかしいんだよ。だからお互い様」
クスッと笑った彼は「舞、ほら」と再び促す。
「ひ、秀明……さん」
やっぱり呼び捨てまでは無理。
下の名前で呼ぶだけでも、冷や汗が出そうだ。
「まぁ、それでいいか」
おかしそうに笑った秀明さんは、少しハードルを下げてくれたようだ。
麻子が井出さんに接するようにまではとてもできそうにない。
だけど、私なりに秀明さんとゆっくり進んでいきたい。