箱入り結婚のススメ
それから彼は、私をもう一度強く抱き寄せてくれた。


もしも私にもっと恋愛の経験があれば、もうそういう関係になっているのかもしれない。

だけど『これが俺たちの“普通の恋愛”でいいじゃないか』という彼の言葉に甘えよう。
今はこれ以上は受け止めきれない。


私達はそれからしばらく言葉を交わさなかった。
こうしているだけで十分幸せだから。

私と同じように口を開かなかった彼もまた同じ気持ちだったのかもしれない。


「そろそろ、リアンに行く?」

「はい」


あまり遅くなってはいけないという秀明さんの配慮なのだと思う。
そういう優しいところが、本当に素敵だ。


私達は手をつないだまま、彼の部屋を出た。

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