箱入り結婚のススメ
「それより……まだなの?」
突然小声でつぶやく麻子に首をかしげると、「わかってるくせに。エッチよ」と言われてハッとする。
「う、うん」
「婚約したわけだし、ね」
『正式に婚約したら、抱いてもいいか?』と言った秀明さんの顔がふと浮かぶ。
「そう、だけど……」
「ほら、ウーマンライフにも書いてあったじゃない。
あまり拒まれ過ぎると落ち込むって。
最初は怖いかもしれないけど、室賀さんに任せればいいわよ」
「うん……」
秀明さんの部屋に行くと約束していた私は、勝手に心臓がドクドク鳴りだすのを止められなかった。
約束の金曜日。
もう子供たちのいない幼稚園で、大掃除を済ませた私達は、いつもより早く仕事が終わった。
「この間の話、覚えてるわよね?」
秀明さんの家に行くことを知っている麻子は、もう一度私に念押しする。
そんなこと言ったって……どうしていいかわかんないよ。
麻子の言葉が気になりつつ、スーパーで買い物を済ませて、彼の部屋に向かった。