初デート~12年目の恋物語 番外編(1)~
それでも、一人で電車に乗れたということには興奮していて、
ほどほどに混みあった車内では、車ではあり得ないスピードで流れる景色に見惚れたりもした。
次々に目に飛び込んでくるたくさんの家。
一瞬で見えなくなる道を歩く人たち。
綺麗に広がった緑の田園風景。
だけど、それもほんの短時間のことだった。
電車も初めてだけど、そもそも、乗りものに立って乗るというのが、わたしにとって初体験だった。
思いの外、きつかった。
なんだかだんだん気持ちが悪くなって来て、
景色が霞んできて、
手すりにつかまっても、立っているのがつらくなって、
頭の中を、どうしよう、どうしよう、という言葉が渦巻き始めた頃。
すぐ側に座っていた人が、
「大丈夫? 代わろうか?」
と席を立ってくれた。
もう、本当に気持ち悪くて、視界は黄色がかってよく見えなくて……。
お言葉に甘えようかと思っていると、
後ろに引っ張られるような重力を感じ、電車は駅に着いた。
「……あの、ありがとう、ございます。でも、降り…ます」
とにかく、この電車という乗り物から、降りたかった。
ささやくような声で、なんとかお礼を言って、ドアに向かう。
もしかして、一駅?
それとも、二駅?
たった、それだけも乗ってられないなんて。
これじゃあ、ママが心配するはず……。