初デート~12年目の恋物語 番外編(1)~

それでも、一人で電車に乗れたということには興奮していて、

ほどほどに混みあった車内では、車ではあり得ないスピードで流れる景色に見惚れたりもした。


次々に目に飛び込んでくるたくさんの家。

一瞬で見えなくなる道を歩く人たち。

綺麗に広がった緑の田園風景。



だけど、それもほんの短時間のことだった。


電車も初めてだけど、そもそも、乗りものに立って乗るというのが、わたしにとって初体験だった。



思いの外、きつかった。



なんだかだんだん気持ちが悪くなって来て、

景色が霞んできて、

手すりにつかまっても、立っているのがつらくなって、

頭の中を、どうしよう、どうしよう、という言葉が渦巻き始めた頃。



すぐ側に座っていた人が、



「大丈夫? 代わろうか?」


と席を立ってくれた。



もう、本当に気持ち悪くて、視界は黄色がかってよく見えなくて……。

お言葉に甘えようかと思っていると、

後ろに引っ張られるような重力を感じ、電車は駅に着いた。



「……あの、ありがとう、ございます。でも、降り…ます」



とにかく、この電車という乗り物から、降りたかった。

ささやくような声で、なんとかお礼を言って、ドアに向かう。



もしかして、一駅?

それとも、二駅?



たった、それだけも乗ってられないなんて。



これじゃあ、ママが心配するはず……。
< 10 / 27 >

この作品をシェア

pagetop