初デート~12年目の恋物語 番外編(1)~
来なくていいよと言いたいけど、心配をかけている自覚はあるので、言えない。
駅名を探そうと、顔を上げてみるけど、駅名のかんばんを見つける以前に、やっぱり、まだよく目が見えない。
どうしよう。
そう思っていると、隣に座る男の人が、教えてくれた。
「駅名? なら、ここは、S駅だよ」
「S駅?」
駅名を聞き返すと、電話の向こうから、カナの困惑した声が聞こえてきた。
「え? ハル、誰かいるの!?」
「……え、と。親切な人」
「親切な人? ……まあいいや、S駅でいいんだな?」
「……うん」
S駅と言われても、正直、よく分からない。
乗る駅と降りる駅は覚えてきたし、路線図も一応、見たけど、あまりに広すぎて、ほとんど頭には残っていなかった。
けど、カナにはすぐ分かったみたいで、ホッとしたような声を上げた。
「良かった! 行き過ぎてなかった! 5分くらいで行けるから。待ってて!」
カナはそう言うと、電話を切った。
……5分?
そう言えば、カナの声の向こうの雑音はすごかった。
もしかして、電車の中?
電車の中では電話しちゃいけないんだよね?
だって、駅にそんなポスターが貼ってあった。
そんなことを思いつつも、カナにそれをさせたのが自分だと分かっているので、なんだか、複雑な気持ちになってしまった。