その香り、反則だな
その香り、反則だな
「先生、傘忘れちゃった」
そう言って、職員玄関で俺を待つ姿に、思わず溜め息が漏れた。
またか。
雨が降る度に、彼女は決まって、俺の傘に入ってくる。
それが、当たり前のようになっていた事に、俺は少し腹がたっていた。
「たまには濡れて帰ったらどうだ?」
「ひどい!熱だして何日も休んだら、先生困るでしょ?出席日数足りなくて、留年しちゃうかも!」
彼女は、そう頬っぺたを膨らませると、いつものように、傘をさした俺の隣にすべり込む。
全く、俺の気も知らないで。
「大丈夫だろ?バカは風邪引かない」
「もう!先生の数学は頑張ってるよ?選択科目だって、先生の教室とってるし。テストだって80点以上毎回いってるもん」
そう言いながら、ふわりと長い髪を耳にかきあげた。
俺の好きな香りが、ほのかに鼻を擽り、彼女とのこの距離感に、いつも、もどかしさを感じる。
教師と、生徒。
けじめは、つけなくてはいけないと、俺は自分自身に誓っていた。
すぐ隣にいるのに、触れてはいけない。
この距離に、その香りに、俺の理性が試される。
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