キスしたくなる唇
 フリップにあるのは10マスに区切られ、それぞれのマスにあるのは唇だった。その下にシールが貼れる場所がある。

 フリップは2枚。ひとつは男性の唇。もうひとつは女性の唇のもの。

 いろいろな形の唇があるものだと、改めて思う。

「あ、この唇いいね~ 食べちゃいたいくらい」

 三井さんが指をさしたのは、艶やかで上下ともぷっくりとした唇。ぷっくりしているのはグロスのせいもあるだろう。

「三井さん、これは女性ですよ。食べちゃいたいくらいって……」

「わたしが男だったらこんな唇たまらないってね。そう言えば千秋の唇もそそられるわね」

「そんな目で見ていたんですか? 三井さんってもしかしたらレ――」

「冗談よ。どれどれ、男性の唇も見てみようかな」

 男性のフリップを持ち上げた三井さんは、真剣な表情でそれぞれの唇を見ている。

「この唇が好みだわ」

「えっと、6番ですね」

 パラパラと指示書を見ていたわたしは、フリップの唇が誰のものなのか書かれている箇所に戻る。

 どの唇も今人気のあるタレント、モデルのものだった。
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