キスしたくなる唇
 怜央がどれだけカッコいいかなんて、三井さんに言われなくてもわかっている。でも、三井さんの言葉を認めたら……行き場のない、心にとどめておかなくてはならない想いがどうしようもなくなりそうであまのじゃくになっていた。

 現在、わたしも一人暮らしをしているから、怜央と会う確率は小指の爪ほどない。それはそれでいいと思う。

 これはアイドルに憧れる気持ちと一緒なのだろうか。

 5才も年上のわたしになんか、怜央は相手にするわけがない。怜央にだけは知られたくない想いだ。

「ちーあーきー? 物思いに耽っちゃってるよー?」

 目の前で手を振られて、わたしはハッと我に返る。

「あ……」

「この仕事、いつまでなの?」

「そうだった! 4日しかないんだった! 行ってきます! カフェオレ、ごちそうさまでした!」

 フリップをトートバッグに戻し、キャメル色のダウンを羽織ると部屋を出た。

 向かった先は原宿。

 行き交う人に声をかける仕事なんてやったことはない。

 緊張する。

 まず原宿駅周辺で20代後半と思われる女性に声をかけると、忙しいからと断られ、意気込んでいた気持ちがシュンとしぼんだ。
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