キスしたくなる唇

逢いたい人

怜央Side
******

「怜央、お疲れさまっ!」

 黒のピーコートに袖を通しているところへ、さっきまで一緒に撮影していたモデルのアンジュが強引に腕を絡ませてきた。

 同い年でフランス人と日本人のハーフの彼女は、小さな頃からモデルで活躍している。

 長いまつ毛に縁どられた大きな瞳の色はカラーコンタクトを使わずしてアンバー色。こういう瞳に憧れる女の子たちはカラコンでしか手に入らないが、彼女は生まれもった美しさで見る人を魅了してきている。

 2年前のモデルになったばかりの頃は、挨拶をしても返してこなかった彼女は最近よく話しかけてくるようになった。
 
 ようは駆け出しのモデルなんかは鼻にもかけないが、売れっ子になると愛想が良くなるステータス第一主義の女。

「怜央っ、これから2人だけで食事にいかない?」

 絡んだ腕を、コート着用を理由に引き離す。

「すみません。これから用事があるんです。また誘ってください」

 用事はなにもないが、スタッフが参加しない食事にはいかないようにしている。特に女性モデルとは。

< 6 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop