キスしたくなる唇
「えーっ、用事があるんだぁ……」

 ローズピンクのグロスが塗られた唇が子供のようにとがる。

 艶やかな唇はそのせいでたくさんの皺がよる。

 彼女の唇を見るたびに、ある人を思い出す。ぽってりとした唇の形は好きな人の唇に似ている気がした。

「ざーんねん。怜央とゆっくりお話ししたかったな」

「お疲れ様でした」

 アンジュから少し離れると、頭を軽く下げる。

 ドアへ向かいながらスタッフに挨拶をしながら部屋を出た。

 黒縁のメガネをかけ、背中を軽く曲げ、俯き加減で足早に駅に向かう。そうすればモデルの怜央だとほとんど気づかれない。

< 7 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop