その指先で、濡れる唇

意地悪を言ったお仕置きのキス。

誰にも言わない口止め料のキス。

木村さんがたらめいがちに唇を離すと、私は――やっぱりぎこちなく目を伏せた。

「可愛いよ、西尾さんは」

えっ……?

い、今なんて……!?

はっとしながら、おずおずのろのろ顔を上げる。

すると、木村さんは私のお守りのグロスを自分の指先にとって――。

「可愛いよ、本当に」

その指で私の唇にそっと触れた。

何度もキスをしたせいで、グロスがすっかり落ちてしまった私の唇に。

「西尾さんはいつだって可愛いよ。本当に、すごく……」

淡々とした声で甘い台詞を重ねながら、木村さんが丁寧に私の唇をなぞっていく。

彼の指先で濡れる唇は繊細で敏感で、なのにとても無防備で。

私は彼にされるがまま。

キスのように互いの唇が触れ合うのとは違う感覚。

ぜんぜん対等じゃなくて一方的。

誤解を恐れずに言うならば、私ばっかり――弱くて恥ずかしいむきだしの自分を弄ばれているようで。

辱められているようで。

完全に掌握されているようで。

なんだか悔しくて、ちょっと……屈辱的。

それなのに、ちっとも……嫌じゃない。
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