その指先で、濡れる唇
名残惜しくも唇を離した頃にはもう、彼の指で艶やかさと取り戻したはずの唇は……。
「せっかくつけてくれたのに。また取れちゃいました」
残念ながら、すっかりすっぴんの唇に逆戻り。
木村さんは決まり悪そうに小さく笑うと、何を思ったのかグロスを自分の胸ポケットに入れた。
「これは没収」
「ええっ」
友達からもらったプレゼントなのに。
今いっちばーんのお気に入りなのに。
没収なんて断固拒否、断固抗議だ。
っていうか――。
「ああっ。木村さん、まさか……!?だめでしょ、それは。いくらその香りが気に入ったからって、そんな自分で――」
「アホ言うな」
木村さんはちょっと呆れたように私の頭をかるーく小突いた。
「これからは職場につけてくることを禁じます、ってこと」
「えーっ」
「お願いだからさ」
「えっ……」
ふんわりと抱きしめられて、ねだられる。
「これをつけるのは、ふたりで会うときだけにしてくれないか」
嬉しくて、嬉しくて、嬉しすぎて。
ちょっと……泣きそうになった。
「ふん。そこまで言われたら仕方がないですね」
気づかれてしまっただろうか、ちょっと涙声になっているのを。
私はそれを誤魔化すようにわざと偉ぶって言って笑った。